狭心症・心筋梗塞などの心臓病を虚血性心疾患といいます。喫煙やLDLコレステロールの高値、高血圧、メタボリックシンドロームなどにより心臓の血管の動脈硬化が進行すると、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を引き起こしやすくなります。
虚血性心疾患は、誰もが罹患しうる生命を脅かす怖い病気ですが、原因を知り、食事への注意、禁煙、運動、また生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)の管理などを行うことにより発症を予防することができる病気でもあります。また一度発症してからも、上記した予防を徹底し、薬物療法やカテーテル治療・手術などの適切な治療や心臓リハビリテーションを受けることで、寿命をのばせることが明らかになっています。
虚血性心疾患とは
虚血性心疾患(きょけつせいしんしっかん)とは、心臓の筋肉に血液を送る血管(冠動脈:かんどうみゃく)が狭くなり、心臓の一部が栄養不足になる病気の総称です。日本では心臓による死因が癌に次いで2番目に多いですが、その約半数が虚血性心疾患です。すなわち心臓の病気の中でも多く遭遇する病気です。
虚血性心疾患ってどんな病気なの?
虚血性心疾患(心筋梗塞・狭心症)の患者数は、70万人以上とされており、日本人の死因のうち約5%を占めています。
虚血性心疾患は、心臓の冠動脈が詰まったり狭まったりして、心筋に血液が行き渡らなくなる病気です。冠動脈の詰まりによって血流が途絶えると心筋梗塞を引き起こし、命の危険につながる可能性があります。
虚血性心疾患である狭心症・心筋梗塞に共通する症状は、左胸付近の圧迫感や痛みです。心筋梗塞になると、左胸周辺に動けなくなるほどの強い痛みや圧迫を感じます。
狭心症と心筋梗塞は、どちらも心臓の冠動脈に関連する病気ですが冠動脈の状態や症状、治療法などが異なります。
狭心症:冠動脈が狭くなっている状態(血流はある)
心筋梗塞:冠動脈が詰まってしまった状態(血流がない)
虚血心疾患の原因
虚血性心疾患の原因の多くは加齢や生活習慣の乱れによる動脈硬化です。
高血圧、脂質異常症、糖尿病、喫煙、肥満などによって動脈硬化が起こると、冠動脈の血管内に悪玉コレステロールが溜まり血管が硬くなります。
悪玉コレステロールの蓄積が進むことで血管が狭くなり、血流が悪くなることで起こる病気が狭心症です。さらに進行すると、冠動脈が完全に詰まる心筋梗塞になります。
また、血管や血液にダメージを与え、動脈硬化を悪化させるといわれている大きな要因がストレスです。精神的・肉体的なストレスにより、発症することもあります。
ストレスが持続すると、体は防御反応として交感神経が活性化し、血圧や心拍数が上昇します。すでに血管にダメージがある場合、血圧の上昇は血管の内壁にさらなる損傷を与えるため、心筋梗塞のリスクが高まるのです。
虚血性心疾患の診断
虚血性心疾患の診断には、問診や心電図、血液検査などの基本的な検査、運動負荷心電図、心エコー、冠動脈CT、心臓カテーテル検査などがあります。
心電図検査(トレッドミル負荷心電図検査・ホルター心電図検査)
トレッドミル負荷心電図検査では、階段昇降などを行っている間、心臓の電気的変化を心電図で監視します。ホルター心電図検査では、24時間心電図を装着して検査します。24時間の心電図変化を観察し、心電図変化から虚血性心疾患の有無を確認します。
エコー検査
エコー検査とは、超音波にて心臓の構造・動き・血液の状態を観察します。これらの状態を確認したうえで、虚血性心疾患の有無を確認します。
レントゲン検査
レントゲンを撮影して、胸部の状態を確認します。レントゲンによって、心臓拡大の有無や心臓の形の変化の有無を確認します。
心臓カテーテル検査
腕や、そけい部(脚の付け根)の動脈からカテーテルという細い管を挿入し、心臓のところで冠動脈に造影剤を流し、レントゲンで観察し、冠動脈の狭窄(細くなっている)、閉塞などを確認します。
虚血性心疾患の症状
虚血性心疾患は、慢性冠動脈疾患と急性冠症候群の2つに分類され、症状や病態、治療法などが異なります。
慢性冠動脈疾患は、冠動脈が慢性的に詰まり気味になっている状態で、「労作性狭心症」や「冠攣縮性狭心症」などに分類されます。症状が比較的安定している「安定狭心症」や心筋梗塞を起こし急性期を過ぎた状態「陳旧性心筋梗塞」が含まれます。
急性冠症候群(ACS)は、冠動脈の血管壁に蓄積した粥腫(プラーク)の破綻とそれに伴う血栓形成により冠動脈内腔が急速に狭窄、閉塞し、心筋が虚血、壊死に陥る状態です。冠動脈が急激に詰まってしまうことで発症する状態で「不安定狭心症」や「急性心筋梗塞」などに分類されます。
狭心症
狭心症の症状は、急激な運動や強いストレスがかかると、心臓の筋肉が一時的に血液(酸素や栄養)不足に陥り、主に前胸部に痛みを感じることが多くあります。また、時には左腕や背中に圧迫感や痛みが生じることもあります。初期の症状は軽微であっても、徐々に悪化することがあるため、早めの受診が重要です。さらに、前触れなく突然胸痛が現れることもあり、症状が強くなったり悪化したりする場合には、突然死のリスクも考えられます。
一般的に心電図に異常が見られないことが多いため、健康診断で問題が指摘されていなくても注意が必要です。
心筋梗塞
心筋梗塞の主な症状は、脂汗をかくほどの激しい胸の痛みで、圧迫感や焼けるような感覚として表現されることもあります。この痛みは30分以上続くことが多く、恐怖感や不安感を伴います。痛みは胸の中央から広がり、左胸や顎、左肩、左腕に放散することもあり、胃痛や歯痛と誤解されることもあります。その他の症状には呼吸困難、冷や汗、吐き気、顔色の蒼白、脱力感、動悸、めまい、失神、ショック症状が含まれます。急性心筋梗塞でも同様の症状が見られます。
虚血性心疾患の治療法
虚血性心疾患の治療は、薬物治療をベースに冠動脈カテーテル治療(PCI) 、冠動脈バイパス手術(CABG)を組み合わせて行われます。薬物治療は、悪玉コレステロール(LDL)を抑える事で動脈硬化の進行を遅らせたり、薬剤で冠動脈を拡張させて血流を増やしたり、心臓の負担を減らすことで、狭心症発作を予防し症状を軽減させます。
薬物療法
虚血性心疾患の治療においては、狭窄した冠動脈を拡張し発作を防ぐためにカルシウム拮抗薬が使用されるほか、血栓形成を抑える抗血小板薬も一般的に用いられます。慢性心不全の場合には、むくみや息切れといった症状を軽減するために利尿薬や強心薬が処方され、さらに心不全の進行を抑えるためにベータ遮断薬やARB/ACE阻害薬が併用されます。また、再発を防ぐために、高血圧や糖尿病など心疾患を悪化させる要因に対する薬物治療も行われることがあります。
カテーテル治療
カテーテル治療は、手や足の血管から細い管であるカテーテルを挿入する方法です。この治療では、バルーンを使って冠動脈を拡張し、狭窄や閉塞を改善するために金属製の筒であるステントを挿入します。また、頻脈性不整脈の場合には、心臓内の原因となる部分を電流で焼くアブレーション治療が行われ、心臓弁膜症では人工弁を設置するためにカテーテルが使用されます。このように、カテーテル治療は外科手術に比べて身体への負担が少なく、さまざまな心疾患の治療に活用されています。
バイパス手術
重度の心疾患に対しては、外科手術による治療が行われることがあります。虚血性心疾患の場合、狭窄や閉塞した冠動脈に対して迂回路を作る「冠動脈バイパス手術」が実施されます。また、心臓弁膜症においては、弁の機能を回復させるために「弁置換術」や「弁形成術」が行われます。従来は全身麻酔のもとで人工心肺を使用し、一時的に心臓を停止させて行う開胸手術が主流でしたが、最近では一部の手術において低侵襲手術(MICS)が採用され、少ない切開で身体への負担を軽減する方法も取り入れられるようになっています。
虚血性心疾患を予防するには
虚血性心疾患を予防するには、血圧をコントロールすることが大切です。高血圧は動脈硬化の危険因子となり、虚血性心疾患のリスクを高めます。食生活や運動、禁煙、ストレスの管理など、生活習慣の改善が大切です。
血圧と血液検査で注意する
高血圧は心臓に負担をかけ、動脈硬化の危険因子となるため、生活習慣の改善や薬物治療で血圧を下げましょう。虚血性心疾患の予防には、血圧や血液検査による動脈硬化のチェックが有効です。
虚血性心疾患は、動脈硬化が原因で冠動脈が狭くなることで起こります。動脈硬化を引き起こす危険因子には高血圧のほかに、高脂血症、喫煙、糖尿病、肥満などがあります。
脂質異常症では、血液中のLDLコレステロールやトリグリセライドの濃度が異常になり、
悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が血管内に蓄積されると、血管が硬くなります。血管が硬くなることで血流が悪くなり、狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患を発症するリスクが高くなります。
食生活の改善
メタボリックシンドロームも虚血性心疾患の危険因子の一つです。動物性の油に多く含まれる飽和脂肪酸のとりすぎ、お酒の飲み過ぎ、食塩のとりすぎが虚血性心疾患のリスクを高くします。炭水化物などの糖質は、過剰に摂取すると血液中に中性脂肪を増やしてしまい、脂質異常症や糖尿病を引き起こす原因になります。つまり、食生活の乱れが虚血性心疾患のリスクを高めるのです。
一方、野菜には塩分を排出させる機能を持つカリウムが多く含まれていて、海藻類には血圧を調整する機能を持つマグネシウムが多く含まれています。
そして魚には血流を良くする働きをもつEPAとDHAが多く含まれています。
これらの食品を意識して摂取することで、食生活改善に繋がります。
運動を習慣づける
適度な運動は虚血性心疾患のリスクを減らすことができます。
適度な運動の効果には、以下のような点があげられます。
- 血液の流れが良くなる
- 肥満を防ぐ
- 心肺機能が向上する
- 心不全を起こしにくい体になる
- 気分転換になる
適度な運動の例として、ウォーキング、ジョギング、自転車に乗る、ラジオ体操、 水泳など有酸素運動がおすすめです。
毎日合計30分以上を目標に、まとめて30分実施できない場合は1日10分を3回にわけて行うなど継続することが大切です。有酸素運動のほかにレジスタンス運動や柔軟運動を行うなど座りっぱなしを避ける生活を心がけましょう。
その他の生活習慣も改める
虚血性心疾患の予防には、運動のほかにも次のような生活習慣の改善が大切です。
- 禁煙する
たばこを吸うと、動脈硬化や血栓の形成が進むことから、虚血性心疾患を引き起こす原因となります。喫煙は動脈硬化性疾患の早期発症や重症化にもつながることが報告されています。
- 過度の飲酒を避ける
週に2日は休肝日を設けるなど、適切な量の飲酒に努め、過度の飲酒は避けましょう。飲酒と虚血性心疾患の発症リスクの関係は、少量の飲酒では低くなる一方、大量の飲酒では高くなるという特徴があります。
- 精神的ストレスを避ける
精神的ストレスは、虚血性心疾患の危険因子として知られています。ストレスが原因で血管に負担がかかり、動脈硬化が進みやすくなるためです。日ごろからストレスをためない生活を心がけましょう。
虚血性心疾患に関するよくある質問
当院によせられる「虚血性心疾患に関するよくあるご質問」にお答えします。
虚血性心疾患になりやすい人は?
虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)になりやすい人は、次のような危険因子を有していることがあります。
- 喫煙者
- 高血圧者
- 肥満者
- 高コレステロール血症や低HDL(善玉コレステロール)血症の人
- 虚血性心疾患の家族歴がある人
- 加齢者
- ストレスをためやすい人
虚血性心疾患の予防には、生活習慣の改善が大切です。なお、家族歴もリスク因子のひとつで第1度近親者(親、子、兄弟、姉妹)の家族歴が影響するともいわれています。
虚血性心疾患の合併症にはどのような病気がありますか?
虚血性心疾患の合併症には、心不全、不整脈、心室中隔穿孔、心破裂、心室瘤、僧帽弁閉鎖不全症などがあります。虚血性心疾患で治療を受け、一命をとりとめても、心臓の細胞の壊死範囲が広ければ合併症を引き起こすリスクが高くなります。
心不全:虚血状態が長く続くと心筋の動きが悪くなり、全身に血液を送るポンプ機能が低下して起こる病気です。
不整脈:心筋梗塞後はあらゆる不整脈が生じる可能性があり、特に心室性期外収縮に注意が必要です。
心室中隔穿孔:左右の心室の間の壁に穴があく状態です。
心破裂:壊死した心筋がもろくなり、ちぎれることがあります。
心室瘤:壊死した心筋が薄くなり外側に向けてとび出す状態です。
僧帽弁閉鎖不全症:左心室内で僧帽弁の弁尖を引っ張っている乳頭筋が痛むと、僧帽弁閉鎖不全がおこり心不全に陥ります。
糖尿病は虚血性心疾患のリスクを増やすの?
糖尿病は動脈硬化を進行させる危険因子で、動脈硬化によって冠動脈が狭窄または閉塞すると、心筋に十分な血液が供給できなくなるため、虚血性心疾患の発症リスクが高くなります。また、糖尿病の病態生理として、インスリン抵抗性の増加、炎症反応の活性化、血管の内皮機能不全などがあり、これらのメカニズムが複雑に絡み合い、心血管疾患のリスクが高まるといわれています。