更年期障害

更年期障害は、一般的に女性が40代から50代にかけて経験する身体的および心理的な変化を指します。この時期、卵巣機能の低下により女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が減少することが主な原因となり、さまざまな症状が現れます。これには、ほてりや発汗、動悸といった身体的症状だけでなく、イライラや不安、睡眠障害といった心理的な症状も含まれます。また、個人差が大きく、全く症状を感じない人もいれば、日常生活に支障をきたすほど重症になる人もいます。適切な診断と治療を受けることで、これらの症状を管理し、快適な生活を維持することが可能です。生活習慣の見直しやホルモン補充療法、プラセンタ注射などの方法が選択肢として挙げられ、それぞれの症状に合わせた対処が求められます。

更年期障害とは

閉経は、卵巣機能が低下し、月経が永久に止まる現象で、通常日本人女性は50歳前後で迎えますが、個人差があります。閉経前後の5年間を「更年期」といい、この間に様々な症状が現れることがあります。特に症状が重く、日常生活に支障をきたす状態が「更年期障害」です。主因はエストロゲンの減少ですが、加齢、心理的要因、社会的状況も影響します。

更年期障害の身体的症状

更年期には以下のような身体的症状が現れます。

ほてりと発汗

ほてりと発汗は、いわゆるホットフラッシュとして知られています。これは、体温調節機能が乱れることで生じる症状で、急に体の芯から熱くなり、多くは顔や首周りで感じられます。持続時間は数秒から数分と個人差がありますが、日中、特にストレスや刺激にさらされた状況で起こることが多いです。

また、夜間に発生した場合、寝汗となり、眠りを妨げることがあります。

動悸

突然感じる激しい心拍や不規則な鼓動は、自律神経系の乱れによって引き起こされます。動悸はストレスや不安が引き金となることが多く、心臓の機能は正常であってもこれらの症状がみられる場合があります。

疲労感と倦怠感

朝起きても疲れが取れない、または1日の活動を通して常にだるさを感じることがあります。これは、ホルモン変動によりエネルギー代謝が効率よく行われなくなるためとされています。エネルギーの供給と消費のバランスが崩れる結果、身体が常に力を使い果たしている状態になるのです。

筋肉や関節の痛み

関節痛や筋肉の違和感は、体内のホルモン変化によって筋肉や関節が柔軟性を失うことが原因です。これにより、肩こりや腰痛、関節の痛みが日常的に発生し、生活の質を下げる要因となります。

更年期障害の心理的症状

身体的症状だけではなく、更年期障害は心理的症状も起こることがあります。

イライラや不安

感情の浮き沈みが激しくなり、些細なことが気に障ったり、イライラしたりすることがあります。ホルモンの変動が中枢神経系に影響を及ぼし、感情の安定性を損なうためです。

また、予期せぬ不安感や落ち着かない気持ちが続くことがあり、日常生活や人間関係に影響を及ぼすことがあります。

うつ状態

気分が落ち込みやすくなり、無力感や絶望感を抱いたりことがあります。特に、更年期は生活の中での役割や環境が変化することが多い時期でもあり、それに適応するストレスが引き金となって、うつ状態になることがあります。心理的サポートや適切な治療を受けることが重要です。

集中力や記憶力の低下

注意力が散漫になったり、今まで簡単にできていたことが難しく感じたりすることが増えます。記憶力の低下も報告されていますが、これもホルモンの不安定さが脳の働きに影響を与えていると考えられます。

更年期障害のその他の症状

身体的、心理的症状に加え、以下のような症状を起こすことも報告されています。

めまい

予期しないふらつきやめまいの発生は、血圧の急激な変動や自律神経のバランス不全が原因です。これによって日常的な移動や活動に制約を受けることがあります。

肌や髪の変化

エストロゲンの減少によって、肌のコラーゲン密度が低下し、乾燥や弾力性の減少が顕著になります。また、髪の質が変わり、薄毛になったり、乾燥してぱさつくことが増えることがあります。これらはエストロゲンの保湿効果が失われるために起こります。

性欲の低下

エストロゲンの影響で性欲が減少することが多く、性的な興奮が起きにくくなることがあります。これがパートナーとの関係に影響する場合がありますので、話し合いや医療的な介入が役立つことがあります。

これらの症状は多様であり、個人によって異なります。そのため、症状が重く生活に影響を及ぼす場合は、医療機関での相談と適切な対応が重要です。

更年期障害の原因とは

更年期障害には、以下の複数の原因が関与しています。

女性ホルモン(エストロゲン)の減少

更年期障害の最も直接的な原因は、卵巣の機能低下に伴う女性ホルモン、特にエストロゲンの急激な減少です。エストロゲンは、体内で多くの生理的機能を調節しており、その減少によって心血管、骨、皮膚、自律神経、そして脳などに様々な影響を及ぼします。これにより、ホットフラッシュ(ほてり)、発汗、動悸、肌の乾燥や関節痛などの症状が引き起こされます。

加齢

加齢により体の機能全般が低下することも、更年期障害の要因となります。細胞の代謝が減少し、筋肉の量が減少することで、全体的に体力が低下し、疲れやすくなります。また、免疫力の低下により様々な病気のリスクも増加します。

精神的・心理的な要因

更年期は人生の中で多くの変化が重なる時期です。仕事での役割の変化、子供の独立、介護問題などのライフイベントが重なることで、ストレスが増加します。ホルモンバランスの変化とも相まって、これらがうつや不安などの心理的な症状を引き起こすことがあります。

社会的な要因

更年期を迎える年齢は、しばしば家庭や職場で重要な位置を担っていることが多いです。このため、社会的なプレッシャーや期待が、ストレスとして影響を及ぼす可能性があります。例えば、家事や育児、仕事、親の介護といった複数の責任を同時に背負うことがよくあります。

環境的な要因

生活環境や生活習慣の変化も、更年期障害の発症に寄与することがあります。運動不足や不規則な生活習慣、栄養バランスの偏った食事も体調に影響を与え、症状を悪化させることがあります。

これらの要因が複合的に影響しあい、更年期障害を引き起こすと考えられています。個々の症状の現れ方やその程度は非常に個人差があり、対処方法も個別に考慮される必要があります。適切な医療機関での診断と治療、ならびに生活習慣の改善が症状緩和に寄与します。

更年期障害の治療法とは

更年期障害の治療は、まず患者さんの症状や生活背景を問診で詳しく伺うことから始まります。その後、食事や運動、睡眠習慣の改善を試みたり、心理療法を用いたりします。それでも症状が改善しない場合は、次のような薬物療法が考えられます。

ホルモン補充療法(HRT)

エストロゲンの減少が更年期障害の主な原因であるため、ホルモン補充療法(HRT)が行われます。

HRTは、特にほてりやホットフラッシュ、発汗などの血管運動症状に高い効果があります。また、心疾患や骨粗鬆症の予防にも効果的です。

通常、エストロゲンと黄体ホルモンを組み合わせて投与します。これは子宮内膜の過剰な増殖を防ぐためです。手術で子宮を摘出している場合は、黄体ホルモンを伴わないエストロゲン単独療法を行います。ホルモン剤には様々な投与法があり、医師と相談して最適な方法を選択します。乳がんリスクについても、現在では生活習慣によるリスクと同等かそれ以下とされています。

漢方薬

漢方薬は生薬を組み合わせて作られ、患者の症状や体質に合わせて処方されます。更年期障害の際には、当帰芍薬散、加味逍遥散、桂枝茯苓丸などがよく用いられます。例えば、冷え性や貧血がある方には当帰芍薬散、精神的な不調がある方には加味逍遥散、のぼせや下腹部の違和感がある方には桂枝茯苓丸が適応です。

向精神薬

精神的な症状が強い場合には、向精神薬が用いられます。抗うつ薬や抗不安薬、睡眠薬が含まれますが、特にSSRIやSNRIといった新しいタイプの薬は副作用が少なく、精神症状を軽減するだけでなく、ほてりや発汗などの身体的症状にも効果があります。

プラセンタ注射

プラセンタ注射は、胎盤由来の成分を用いて健康や美容をサポートするものとして知られています。更年期障害においては、ホルモンバランスの調整や代謝の活性化を期待して用いることがあります。

これらの治療法は、個々の症状や生活スタイルに合わせて選択され、医師と一緒に最適な治療プランを作ることが重要です。症状が改善されるまでには時間がかかることもありますが、患者さんの生活の質を向上させるために、適切な治療が行われます。

更年期障害に関するよくある質問

更年期障害になりやすい人はどんな人?

更年期障害は、特に真面目で完璧主義、神経質、頑張り屋さんといった性格の人がなりやすい傾向があります。こうした方々は、仕事や子育てに非常に熱心であることが多く、特に女性に多く見られます。更年期には、仕事や子育て、子どもの自立、介護など、心身に大きな負担をかける環境ストレスが増えるため、これらの状況にある女性は、症状が重くなることが一般的です。