お腹が痛い場合、胃腸炎である可能性があります。胃腸炎は、胃や腸の漠然とした不快感から、キリキリ、ズキズキといった痛みを伴うものまで違和感や症状はいろいろです。嘔吐を伴うこともあり、重症化すると脱水症を起こすこともあります。特に子どもや高齢者は命に関わる危険があるため、十分な注意が求められます。胃腸炎の種類によって治療法は異なるため、医師による問診や検査を通じて正確な診断を受けることが重要です。
胃腸炎とは
胃腸炎とは、胃、小腸、大腸の粘膜に炎症が起きた病気で、下痢や腹痛、嘔吐などの症状があらわれる病気です。多くが細菌やウイルスに感染することにより起こり、感染性胃腸炎とも呼ばれます。
胃腸炎ってどんな病気なの?
胃腸炎は、何らかの原因で胃腸の粘膜が損傷し、粘膜が炎症を起こした状態をいいます。症状は多彩ですが、代表的な症状は発熱・下痢・吐き気・嘔吐・腹痛です。それぞれの以下のような症状の特徴があります。
- 発熱:ウイルス性胃腸炎の場合は37度台であることが多いですが、カンピロバクター性腸炎などの細菌性腸炎、ノロウイルスなどは38度にまで達することがあります。
- 下痢:通常のウイルス性腸炎は、水様便が多く、回数が多いためトイレにこもりっぱなしになることもしばしばです。細菌性腸炎やストレス性胃腸炎の場合は粘り気や血液が混じり、腐ったような臭いがすることがあります。
- 吐き気・嘔吐:通常は食べたものか胃液だけのことが多いです。油分が多いものを食べると増強します。
- 腹痛:全体的に波がある腹痛が特徴的。逆に持続し徐々に強くなる腹痛は胃腸炎でなく、緊急性のある病気の可能性があります。
胃腸炎の原因
胃腸炎の原因には、食べ過ぎや刺激物、感染、ストレス、自己免疫疾患などがあります。ウイルスや細菌などの感染によって起こる感染性胃腸炎はウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎の大きく2種類に分けられます。
ウイルス性胃腸炎は嘔吐下痢症などとも言われ、どちらかというと冬場に多い感染症です。 細菌性腸炎は食中毒などといわれ、 夏場に多い傾向があります。サルモネラ菌やカンピロバクターなど細菌に感染することで発症します。
その他ストレスなど心因性の機能性胃腸症、冷たい食べ物の摂取などによって起こる腸管機能の障害、寄生虫の感染、毒性のある化学物質の摂取などが原因となり、胃腸機能障害をおこす場合もあります。
胃腸炎の診断
胃腸炎は、症状や所見、検査結果などを総合的に判断して診断されます。汚染された食べものや水の摂取歴、最近の旅行歴、抗菌薬の使用歴などの聴取から、嘔吐や下痢の回数、腹痛について、最近食べた食べ物、その他の症状(発熱など)から医師による評価を行います。
通常は症状から診断されますが、必要に応じて血液検査、便検査などを行い、検査診断は、迅速診断キットを用いた抗原検査や、病源体の検出によります。
症状が重篤な場合は、水分と電解質のバランスが崩れているかどうかを調べる血液検査や、腎臓の機能を調べるための検査が必要になることがあります。
胃腸炎の治療法
胃腸炎の多くは、基本的には安静と水分補給、食事制限、薬物療法などによる対症療法で治ります。胃腸炎の主な治療は以下のとおりです。
- 整腸剤や制吐剤、抗菌薬などを服用
- 水分補給をしっかりおこなう
- 食事は吐き気が落ち着いてから
- 十分な休息、睡眠を心がけよう
整腸剤や制吐剤、抗菌薬などを服用
胃腸炎の薬物療法には、整腸剤、制吐剤、抗菌薬、解熱剤などがあります。ウイルス性胃腸炎では抗ウイルス薬がないため、対症療法が基本となります。
制吐薬が内服薬、注射薬、または坐薬として投与されることがあります。吐き気止めや痛み止めの薬、整腸剤の服用により症状を緩和します。
炎症が強い場合や細菌が原因と考えられる場合は抗生物質を用いる場合もあります。
下痢止めや吐き気止めの薬は、ウイルスの排出を妨げて回復を遅らせることがありますので、市販薬を自己判断で使用するのは避けましょう。症状が重くつらいときや水分補給ができないときは必ず病院を受診し、処方された薬を、用法用量を守って使用するようにしてください。
水分補給をしっかりおこなう
胃腸炎を早く治すには、脱水を防ぐことが最も重要です。胃腸炎では、嘔吐や下痢によって体内の水分やミネラルが失われ、脱水症状を引き起こすことがあります。そのため、ミネラルを補給する必要があります。常温水や麦茶でもよいですが、嘔吐や下痢、発熱などの症状が激しい場合は、スポーツドリンクや経口補水液が推奨されます。
水分補給のポイントは以下のとおりです。
- 嘔吐直後は胃を休め、1~2時間後にゆっくりと水分を摂る
- 経口補水液やスポーツドリンク、子ども用のイオン飲料など、水分と電解質を補給できる飲み物を用いる
- 酸味が強い飲み物や牛乳などは避ける
- こまめに少しずつ飲む
食事は吐き気が落ち着いてから
胃腸炎の治療では、吐き気止めや整腸剤などのお薬を使うことが多いですが、それと同時に食事の内容も大切です。
脱水を避けるため、まずは水分補給をしましょう。症状がひどく食べ物を受け付けないときにも、脱水症状を避けるために水分補給を行いましょう。
吐き気がおさまり水分がしっかり取れるようになったら、下痢が続いていても早めに消化の良い食事を開始しましょう。絶食期間が長くなると腸粘膜がやせ衰えてしまい回復が遅れてしまいます。
消化吸収のよいごはんやうどんなどの炭水化物を中心に、便を固める効果のあるもの(りんご、バナナ、にんじん)や、キャベツ、大根などの野菜を使ったお料理がおすすめです。
胃酸の分泌を高める食品は、控えましょう。
十分な休息、睡眠を心がけよう
胃腸炎になった場合は、免疫を高めるために十分な休息と睡眠が大切です。胃腸炎にかかると嘔吐や下痢で体力を消耗するため、いつも以上に睡眠をしっかり取りましょう。起きている間もできるだけ横になって体を休める、疲れを感じたら、無理をせず休息を取るようにしましょう。
胃腸は日ごろの生活習慣を反映して、症状が現われやすい臓器です。暴飲暴食、刺激の強い飲食物の摂取、栄養バランスの悪い食事、喫煙、冷え、睡眠不足などは、胃粘膜にダメージを与えたり、胃腸の消化吸収機能を低下させたりして、胃腸のトラブルの原因となります。
胃腸炎をうつさないために
胃腸炎はウイルスや細菌によって引き起こされる感染症のため、周囲に感染させる可能性があります。ドアノブや調理器具からうつしやすいので手洗いや換気、調理器具の消毒などの感染対策はしっかり行うことが大切です。
嘔吐物の処理は慎重に
胃腸炎の嘔吐物を処理する際は、使い捨ての手袋やマスクを着用して直接触らないようにし、ウイルスや細菌を吸い込まないようにしましょう。また、ウイルスが乾燥すると空気中に漂うため、乾燥させないようにすることも大切です。
かたづけ終わるまでは、なるべく他の人にうつさないようにその場から遠ざけましょう。
または、少なくとも3m以内に近づかないようにすることが必要です。
早めに受診を心がける
ウイルスを原因とする感染性胃腸炎については、特別な治療法がありません。治療は対症療法に限られます。胃腸炎は乳幼児や高齢者等の抵抗力の弱い方が感染すると重症になることがあるので、早めに医療機関を受診しましょう。早めに受診することで重症化を防ぎ、まわりに感染させるリスクも低下します。症状が強い場合や長引く場合、脱水症状がある場合も早めに受診し適切な対処を仰ぎましょう。
清潔な環境を維持する
胃腸炎の予防には、手洗いや調理器具の消毒、換気などが有効です。
石けんと流水による十分な手洗いが予防の基本です。外出先から帰った時、食事の前、トイレの後には、必ず流水と石けんで手を洗いましょう。
調理器具は、その都度洗剤で洗い、熱湯などで十分な消毒が必要です。
また、室内に漂ったウイルスが停滞しないよう大事なのが換気です。風の通り道(入口と出口)を作ることがポイントで、空気の出入り口が対角線となるように2ヶ所以上の窓を開けると効率よく換気ができます。
胃腸炎に関するよくある質問
当院によせられる「胃腸炎に関するよくある質問」にお答えします。
胃腸炎のウイルス特定は必ずするべきですか?
胃腸炎の原因となるウイルスを特定するための検査は、必ずしも必要ではありません。これは、感染性胃腸炎の治療法が原因によって大きく変わることが少ないためです。また、どのウイルスが原因であっても、適切な感染対策を講じれば人から人への感染を防ぐことができます。ただし、ノロウイルスや食中毒の場合は、保健所の指示に従う必要がある場合があります。
胃腸炎に潜伏期間はありますか?
胃腸炎には潜伏期間があり、感染したウイルスや細菌の種類によって異なります。感染してから発病するまでの「潜伏期間」は、平均1日から4日です。
ウイルス性胃腸炎の腹痛や下痢などの症状は、原因となる食べ物などを食べた直後に起こるわけではありません。ウイルスが増殖して症状が出るまでの「潜伏期間」と呼ばれる日数を経てから症状が現れます。
また、症状が消失後1週間~3週間も感染する可能性があります。胃腸炎は、症状が出ている最中だけでなく、潜伏期間や症状が治まった後も感染する可能性があります。