高血圧は、血圧が常に高い状態であり、生活習慣や遺伝的要因が影響を及ぼします。この状態は、心臓や血管に深刻な影響を与え、心疾患や腎疾患のリスクを増加させる可能性があります。そのため、食事や運動といった生活習慣の見直しや、必要に応じた薬物療法が不可欠です。健康を守るために、早めの対策を講じることが重要です。
高血圧とは
高血圧とは、心臓が血液を動脈に送り出すときに、血管内にかかる圧力が通常よりも高い状態を指します。血管が柔軟で健康な状態であれば、血圧は基準値内に収まりますが、血流が悪化すると、心臓はより多くの血液を強い力で全身に送り出そうとし、その結果、血圧が上昇します。この状態が持続することを高血圧症と呼びます。
血圧について
血圧とは、心臓から送り出される血液が血管を押す圧力のことです。
収縮した心臓から血液が送り出されるときの圧力を「収縮期血圧(上の血圧)」、全身を巡った血液が再び心臓に戻ってくるときにかかる圧力を「拡張期血圧(下の血圧)」といいます。
高血圧は、家庭での測定で135/85mmHg以上、診察室での測定で140/90mmHg以上と定義されています。一方、正常血圧は家庭での測定で115/75mmHg以下、診察室での測定で120/80mmHg以下とされています。
高血圧のときに感じる症状とは
高血圧自体には自覚症状がないため、診察室や家庭で血圧を測定しない限り、自分ではなかなか高血圧に気付くことができません。
しかし、高血圧を放置すると血圧の上昇が血管にダメージを与え、動脈硬化を引き起こす原因になります。
血管の壁は本来は弾力性を持っていますが、高血圧が長期間続くと、血管は常に緊張した状態になり、次第に厚く硬くなります。これが高血圧による動脈硬化であり、この動脈硬化は大血管や小血管の両方に影響を及ぼし、脳出血や脳梗塞、大動脈瘤、腎硬化症、心筋梗塞、眼底出血などのリスクを高めます。また、心臓は高い血圧に対抗するために過度の負担を強いられ、心臓肥大や心不全を引き起こす可能性もあります。したがって、これらの合併症を予防するためには、高血圧を避けるよう注意し、すでに高血圧の方は血圧を正常な範囲に戻すことが重要です。
高血圧になる原因とは
高血圧には原因がはっきりしているものと、原因ははっきりせずさまざまな要因が関わっているものがあります。
医療機関で高血圧の原因や、関連している要因を明らかにして適切な治療を受けましょう。
生活習慣の乱れが主な要因
本態性高血圧症とは、原因のはっきりしていない高血圧のことを指します。
本態性高血圧症は日本人の高血圧の80~90%を占めており、発症には、加齢のほか、以下のような生活習慣が関係しています。
- 塩分の摂り過ぎ
塩分を摂り過ぎると、体内の塩分濃度を低くするために腎臓が身体から水分が出ていくのを防ごうとします。すると体内の血液量が増え、一度の心拍によって送り出される血液の量も増えるので、血圧が上昇します。
- 肥満
肥満の人は正常体重の人の1.5~2.5倍高血圧になりやすいと言われています。肥満の人は内臓脂肪の多さや食べ過ぎによる塩分の摂り過ぎ、インスリンの過剰分泌傾向のために、体内の血液量が増加して血圧が上昇します。
- 過度の飲酒
お酒を長期間にわたって習慣的に過剰に飲むと血圧が上がりやすくなります。このメカニズムは詳しく解明されていませんが、交感神経への刺激や電解質異常などの影響が指摘されています。
- 運動不足
適度な運動は体内の余分な塩分(ナトリウム)を排泄する働きを強めますが、運動不足になると身体に余分な塩分をためこみやすくなります。肥満の原因にもなり、間接的に血圧上昇の原因となります。
- 喫煙
喫煙すると交感神経が刺激され、喫煙してから15分ほど血圧の高い状態が続きます。喫煙は動脈硬化のリスクも高めます。動脈硬化は様々な合併症の引き金になってしまいます
ストレスも高血圧を引き起こす
ストレスは交感神経を活性化させ、血管を収縮させるため、血圧が上昇します。短期間のストレスによる血圧の上昇は、気持ちが落ち着くことで血圧も低下しますが、ストレスが慢性的になると高血圧の状態が持続します。
日中の活動時間帯には血圧が上昇しやすく、特に「昼間高血圧」と呼ばれる状態には注意が必要です。これは、病院で測定した血圧が正常であっても、日中の血圧の平均値が135/85 mmHg以上になることを指します。
職場や家庭でストレスを抱える人々、さらには肥満や高血圧の家族歴を持つ人々にも多く見られます。この昼間高血圧は脳心血管疾患のリスクを高めるため、朝晩の家庭での血圧が正常であっても安心することはできません。
遺伝も高血圧の原因になりうる
遺伝的な体質も高血圧のなりやすさに関連しています。血圧を調整する仕組みに関わる遺伝子が親から子に受け継がれるためです。
両親が共に高血圧であると、子どもが高血圧になる可能性は約50%、一方の親だけが高血圧の場合は約30%と言われています。
しかし、高血圧を発症している家族と一緒に暮らしていることで自然と似た生活環境になってしまうため、高血圧を発症するリスクも高まるとも考えられています。
家族で高血圧の人がいる場合は、遺伝素因も血圧上昇の原因のひとつとなりますが、遺伝だけで高血圧になることは決して多くなく、環境因子である生活習慣が影響しています。
家族に高血圧の人がいて、ご自身の血圧も心配な場合には、生活習慣を見直すことから始めてみましょう。
高血圧は他の病気の原因になりえる
高血圧は、生命の維持に欠かせない臓器が損傷を受けるまで、何年もの間まったく症状があらわれないことが多いため、「サイレントキラー(静かな殺し屋)」と呼ばれています。高血圧がコントロールされないままでいると、心不全、心臓発作、動脈瘤(どうみゃくりゅう)、脳卒中などが起こるリスクが高くなります。
心臓の病気(狭心症・心筋梗塞・心不全)
高血圧が原因で心臓の機能に障害が起こる状態を「高血圧性心疾患」といいます。高血圧が続くと血管が硬くなり、心臓に大きな負担がかかることで、狭心症や心筋梗塞、心不全などの心疾患を引き起こす可能性があります。
心臓の冠動脈(心筋に酸素や栄養分を送る血管)が狭くなったり(狭心症)、詰まったり(心筋梗塞)して、胸に痛みや圧迫感を覚えます。急性の場合、死に直結する危険性があります。
心不全は、高い血圧にうち勝とうと無理をすることで心臓が肥大し、機能不全を起こします。
血管の病気(動脈硬化・大動脈瘤)
常に血圧の高い、張りつめた状態に置かれると、そのストレスから、動脈は次第に厚く、硬くなり、血管の内径が狭くなります。その結果、血液が流れにくくなり、全身の細胞に充分な酸素や栄養分が送れなくなります。こうして、さまざまな臓器に合併症を起こしてしまうのが動脈硬化です。
大動脈瘤とは、心臓から血液を送り出す太い動脈(大動脈)に、コレステロールなどが溜まってできるコブのことです。コブが破裂すると大出血し、命にかかわります。
脳の病気(脳出血・くも膜下出血・脳梗塞)
高血圧が続くと、脳の血管が詰まったり破れたりして、脳出血や脳梗塞などの脳血管障害(脳卒中)を引き起こす可能性があります。
脳出血は、高血圧の程度が強い場合、脳の血管が破れて起こります。脳の細い血管が破れて生じる脳出血と、脳の太い血管にできた動脈瘤が破れて大出血を起こすくも膜下出血があります。
高血圧が長く続くことで動脈硬化が進行し、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで起こるのが脳梗塞です。脳の奥深くにある細い血管で起こりやすく、小さな梗塞が複数できることもあります。
その他
眼の奥の毛細血管が詰まり、出血するのが、眼底出血です。高血圧によって網膜の血管が障害を受け、出血や浮腫を引き起こすのが高血圧性網膜症です。
失活習慣の修正(食事療法や運動療法)と高血圧は、腎臓と密接な関係があり、高血圧が続くと腎臓の機能が低下し、慢性腎臓病(CKD)を引き起こす可能性があります。また、腎臓の機能が低下すると高血圧を悪化させるという悪循環も起こります。
高血圧が続くと、腎臓の血管に動脈硬化が起こり、血液の通り道が狭くなります。
血液の流れが悪くなると、腎臓の機能が低下し、余分な塩分や水分の排泄が充分にできなくなります。血液量が増加して血圧が上がります。血圧が上がると腎臓への負担が増え、ますます腎臓の機能が低下します。
高血圧を治療するには
高血圧の治療には、薬物療法と生活習慣の修正(食事療法や運動療法)があります。特に本態性高血圧の治療では食事療法や運動療法が基本となります。 生活習慣の改善によりじっくり血圧を落としていく治療法です。 症状が重く合併症リスクの高い高血圧の場合は、食事・運動療法だけでなく、薬物療法もあわせて行います。
血圧を下げる薬を飲む
高血圧の治療は、まずは生活習慣の改善に取り組み、不充分な場合に血圧を下げるお薬、いわゆる降圧薬をもちいた治療を行い、目標である正常血圧値の家庭血圧125/75 mmHg未満を目指します。
降圧薬は「血圧を降下させることができるお薬」の総称です。血圧は体の中の血液・水分量や血管の硬さ、そしてホルモンの作用などで決まりますので、降圧薬はこれらに作用することで血圧を下げられます。
降圧薬の種類とその代表的な薬剤、その効果は下記の通りです。
- カルシウム拮抗薬
概要: カルシウムイオンの細胞内への流入を阻害し、血管の平滑筋を弛緩させることで血圧を下げます。
代表的な薬: アムロジピン、ニフェジピン、アゼルニジピン、シルニジピン
効果: 血管の収縮を防ぎ、血圧を下げる効果があります。また、心臓への負担を軽減する作用もあります。
- アンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)
概要: 血圧を上げるホルモンの代表格であるアンジオテンシンIIがその受容体に結合するのを阻害し、血管の収縮を防ぎます。妊婦には投与が禁忌とされています。
代表的な薬: アジルサルタン、オルメサルタン、テルミサルタン、ロサルタン、カンデサルタン
効果: 血管の収縮や体の中の水分の貯留を抑制し、血圧を下げる効果があります。
- アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE-I)
概要: アンジオテンシンIをアンジオテンシンIIに変換する酵素を阻害し、血管の収縮を防ぎます。空咳の副作用が知られています。
代表的な薬: エナラプリル、ペリンドプリル、イミダプリル、カプトプリル
効果: ARBと同様に血管の収縮や体の中の水分の貯留を抑制し、血圧を下げる効果があります。
- サイアザイド系利尿薬
概要: 尿の排出を促進し、体内の余分な水分と塩分を排出することで血圧を下げます。
代表的な薬: ヒドロクロロチアジド、トリクロルメチアジド、インダパミド
効果: 体内の塩分や水分量を減少させることで血圧を下げる効果があります。食塩感受性高血圧において特に有効とされています。
- β遮断薬(含むαβ遮断薬)
概要: 心臓のβ受容体に作用し、心拍数と心拍出量を減少させます。
代表的な薬: ビソプロロール、カルベジロール、プロプラノロール
効果: 主に心臓に作用し、心拍数と心拍出量を減少させることで血圧を下げます。心臓への負担を軽減するため、特に心不全の患者さんに積極的に用いられます。
- 直接レニン阻害薬
概要: 血圧を上昇させるホルモンであるレニンの産生を抑えることで、血圧を下げます。
代表的な薬: アリスキレン
効果: レニンは最終的にアルドステロンの分泌を促すホルモンなので、レニンを抑制することでアルドステロン受容体拮抗薬(ARB)と同様に血管の収縮を抑えて血圧を下げる効果があります。
- ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬
概要: 腎臓にあるミネラルコルチコイド受容体に結合するのを阻害し、ナトリウムの再吸収を抑制します。カリウムが高くなる場合があり、副作用として知られています。
代表的な薬: エサキセレノン、エプレレノン、エサキセレノン
効果: ナトリウムの対外への排泄を促すことで血圧を下げることができます。心不全の患者に対しても有効とされ、よく用いられます。
- α遮断薬
概要: α受容体に作用し、末梢血管を拡張させ、血圧を下げます。起立性低血圧を生じることがあるので、少量から開始することが多いです。
代表的な薬: カルデナリン、ドキサゾシン、エブランチル
効果: 血管を拡張させることで血圧を下げます。前立腺肥大を伴う患者さんには使用しやすいです。
目標の血圧を達成するためには、複数の薬を併用することも多いです。高血圧は生活習慣病のひとつで、完治することはありません。薬を中断すると血圧が急激に上昇するため、定期的に医療機関を受診し、適切な治療を行う必要があります。
減塩する
減塩は血圧を下げる効果があり、高血圧への薬が効きにくい場合にも効果的です。
高血圧の人が1日1gの塩分を減らすと、上の血圧は1mmHg程度、下の血圧は0.5mmHg程度下がるといわれています。血圧の低下効果があらわれるのは1週間程度かかります。
減塩は、高血圧への薬が効きにくい治療抵抗性高血圧や、夜に血圧が高くなる夜間高血圧にも効果があるとされています。
禁煙する
血圧を下げるには、禁煙が効果的です。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させるため、血圧を上昇させます。また、喫煙者や喫煙歴のある人は、非喫煙者に比べて高血圧を発症しやすいということがわかっています。
禁煙すると、喫煙によって収縮していた血管が元に戻り、血圧や脈拍が下がります。禁煙開始後20分程度で血圧や脈拍が正常値に下がり、血流が改善し始めます。
禁煙による血圧の低下効果は、禁煙の経過時間とともに現れます。
禁煙開始後20分程度:血圧や脈拍が正常値に下がる
禁煙開始後12時間程度:血中の一酸化炭素値が正常値になる
禁煙開始後1~9ヶ月程度:咳や息切れが減る
禁煙開始後1年程度:冠動脈性心疾患のリスクが喫煙者の約半分に低下する
生活習慣を見直す
高血圧を予防改善するための生活習慣で食事での高血圧対策としては以下のようなものがあります。
- 適度な運動
適度な運動は、高血圧の予防や改善に効果があります。血圧を下げるには、中等度の強度(ややきつい)の有酸素運動を週3日以上、1日に合計30分以上行うのがよいでしょう。血圧を下げる運動の例としては、次のようなものがあります。
ウォーキング(速歩)、ジョギング(軽め)、サイクリング、水泳、水中ウォーキング、エアロビクス、ラジオ体操、球技(テニスなど)
- 野菜を多く摂る
野菜にはカリウムが多く含まれています。野菜を食べて血液中のカリウム濃度が上昇すると、体は細胞の中にカリウムを取り込みます。その際、カリウムの交換として細胞内のナトリウムが血液中に放出されるのです。
血液中のナトリウムが増えると、腎臓でのナトリウムの再吸収が抑制されて、尿中へのナトリウムの放出と共に利尿がつき血圧が下がります。特に食塩感受性高血圧の人ほどこの野菜の降圧効果は明らかです。
- 良質な睡眠
寝不足になると、交感神経が刺激されるため、血管が収縮して心拍出量が増加し、血圧が上がりやすくなります。
- 深呼吸やゆったりとした腹式呼吸
高血圧の人は呼吸が浅く回数が多い傾向にあります。腹式呼吸のような深い呼吸をすると血圧を下げる生理活性物質が多く作られるようになります。また、深い呼吸には自律神経の作用を整える効果があります。吐く息を長くすることにより、副交感神経が優位になり血圧が下がることが報告されています。