花粉症

春になると花粉が飛び始め、多くの人々が花粉症に悩まされる時期がやってきます。花粉症は、鼻や目の不快感を引き起こし、日常生活に支障をきたすことがあります。この症状は、アレルギー反応によって引き起こされるもので、近年では発症する人が増えているともいわれています。花粉症の原因や症状、予防法について知ることは、症状を軽減し、快適に過ごすための第一歩です。本記事では、花粉症に関する基本的な情報をお伝えし、実践できる対策についてご紹介いたします。

花粉症とは

花粉症は、スギなどの植物の花粉が原因で起こるアレルギー疾患で、日本では約60種類の原因植物が知られています。くしゃみ、鼻みずといった鼻の症状や、目のかゆみ、充血といった目の症状が一般的ですが、人によっては、皮膚のかゆみ、のどの痛みやかゆみ、せき、頭痛、発熱などあらゆる症状があらわれることもあります。

花粉症の原因はアレルギー反応

私たちの体には、有害なものや不都合なもの(異物)を排除し、体を守ろうとする免疫機能が備わっていますが、時にはこの免疫反応が過剰になり、体に都合の悪い結果を招く場合があります。これがアレルギー反応です。花粉症は、体内に入り込んだ花粉(異物)を、体から排除しようと過剰に反応することで引き起こされます。

花粉は本来人体にとって無害ですが、鼻や目から体に取り込まれると、体の免疫が花粉を異物であると認識します。すると異物である花粉を捕らえるためにIgE抗体と呼ばれる物質が作り出され、アレルギー反応を起こす細胞「肥満細胞(マスト細胞)」に結合します。この肥満細胞から放出されるヒスタミン、ロイコトリエンなどの物質がアレルギーの症状を引き起こします。ヒスタミンは鼻水やくしゃみ、かゆみを起こし、ロイコトリエンは粘膜の腫れを起こし鼻づまりの原因となります。

花粉症のメカニズムを理解しよう

花粉症の発症メカニズムには、いわゆるアレルギーを起こす前段階である「感作(かんさ)」と、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりといった花粉症の症状が出現する「発症」の2つの段階があります。

花粉症は、目や鼻の細胞の表面に付着しているIgE抗体と花粉とが結合し、アレルギー症状と関係している「肥満細胞」と呼ばれる細胞から化学伝達物質が分泌され、それらの物質が神経や血管を刺激することで生じます。主な症状としては目のかゆみや充血、くしゃみ、鼻みず、鼻づまりなどがあります。症状には個人差があり、同じ量のアレルゲンが体内に入り込んでも、症状が出る人と出ない人とに分かれます。

毎年花粉のシーズンになると同じ症状を繰り返してしまうのは、このような細胞とアレルゲンの反応が繰り返されるからです。

花粉症のつらい症状

花粉症が発症すると、鼻水やくしゃみ、目のかゆみなど、日常生活に支障をきたす症状があらわれます。これらの症状は、花粉が引き起こす炎症が原因です。ここでは、花粉症の主な症状とその影響について詳しくみていきましょう。

鼻の症状

花粉が鼻の粘膜に触れることで、体がアレルギー反応を起こし、鼻水や鼻づまり、くしゃみが頻繁に発生します。鼻水は最初は水っぽい状態から、時間が経つと粘り気が強くなることがあります。鼻づまりは、息苦しさを引き起こし、夜間も眠れなくなることがあります。また、繰り返し起こるくしゃみや、鼻をかむことで、鼻周りが赤くなるといった肌の炎症を引き起こすこともあるでしょう。これらの症状は、仕事や日常生活に支障をきたすことが多く、適切な対策が必要です。

目の症状

花粉症による目の症状は、特に目のかゆみや赤み、充血が代表的です。花粉が目に触れることで、免疫反応が引き起こされ、かゆみや腫れを感じることがあります。目がしょぼしょぼして涙が出やすくなるほか、目の周りが赤くなることもあります。また、まばたきや目を擦ることで症状が悪化し、さらに不快感を引き起こします。長時間、屋外にいると症状が強くなることがあり、外出後には目を冷やす、目薬を使うなどの対策が有効です。目の症状は日常生活に大きな影響を与えるため、早期の対応が重要です。

目や鼻以外にも症状が出る

花粉症は目や鼻以外にもさまざまな症状を引き起こします。例えば、喉のかゆみや痛み、乾燥感が生じることがあります。これもアレルギー反応によるものです。また、頭痛や倦怠感、集中力の低下など、全身に影響が出ることもあります。花粉が体内に入ることで免疫系が過剰に反応し、体調不良を引き起こすことがあるのです。さらに、目や鼻の症状が重すぎることによる寝不足やストレスも加わり、日常生活に支障をきたすことが少なくありません。これらの症状は、花粉症が進行することで悪化する可能性もあります。

花粉症の治療法

花粉症の治療法には、症状を軽減するためのさまざまな方法があります。薬物療法や生活習慣の工夫、環境対策など、個々の症状やライフスタイルに合わせて取り入れることが大切です。ここでは、花粉症の効果的な治療法について紹介していきます。

内服薬による治療

内服薬では、アレルギーを抑える抗ヒスタミン薬が第一選択です。また、鼻づまりを改善する作用があるロイコトリエン受容体拮抗薬、花粉に曝露して生じる各種の化学伝達物質(ケミカルメディエーター)に対するメディエーター遊離抑制薬なども用いられます。内服薬のなかには、副作用として眠気を伴うものがあり、車の運転や機械の操作をする人などでは特に注意が必要です。効き目が現れる早さや服用回数など、ライフスタイルに合った薬を処方してもらいましょう。

外用薬による治療

花粉治療の際の外用薬には、鼻の炎症を抑える点鼻ステロイド薬や、目の痒みを抑える抗ヒスタミン点眼剤や点眼ステロイド薬などが用いられます。点鼻薬は鼻粘膜局所の治療に有効です。点眼薬は、花粉症においては、目のアレルギー反応を抑えることで目のかゆみや充血などを緩和するのに有効です。目の粘膜に直接作用するので、内服薬より効き目も早く、眠気などの副作用も出にくいとされています。内服薬に比べ、早く効果を実感できるものが多いですが、目や鼻などピンポイントで使用するものになるため、効果の範囲は限定的となります。

アレルゲン免疫療法での治療

原因となるアレルゲンを投与して、体のアレルギー反応を弱めます。アレルギー症状を治したり、長期にわたり症状をおさえたりする可能性のある治療法です。

症状が完全に抑えられない場合でも、症状を和らげ、薬の使用量を減らすことも期待できます。注射製剤と舌下製剤(舌下錠)があり、舌下錠では日本ではスギ花粉とダニが保険適用になっています。治療は数年以上必要であり、根気のいる治療ですが、薬物療法で副作用が出るために治療が続けられない患者さまや、薬物療法だけでは症状が抑えられないような患者さまには、免疫療法が考慮されます。

手術療法の治療

手術はおおまかに以下の3つの選択肢があります。

  • 鼻粘膜変性手術
  • 鼻腔形態改善手術
  • 鼻漏改善手術

それぞれみていきましょう。

鼻粘膜変性手術

鼻の中の粘膜をレーザーなどで処理することによりバリアを作り、花粉が着いても反応を起こさなくする手術です。粘膜が縮まるため、鼻の中の空間が増え鼻詰まりも軽くなります。

鼻腔形態改善手術

鼻の構造を適切なものに変える手術です。鼻炎が悪化して重度の鼻詰まりが続き、従来の治療では回復しない場合に行われます。鼻粘膜のボリュームを減らしたり、鼻の中を広くすることにより、空気の通り道を増やし、鼻詰まりを解消することにつながります。

鼻漏改善手術

レーザー治療が効かなかった方も含めて、重度の鼻水に対する新しい手術方法です。下鼻甲介にある副交感神経と知覚神経を部分的に切断し、鼻水そのものを出ないように抑える効果があります。鼻内経由の後鼻神経切断術は、従来の神経切断手術に比べ、涙腺や知覚に与える影響が少なく、最小の損傷で高い効果が期待できます。

「手術でアレルギー性鼻炎が治る」という表現は適切ではありませんが、様々な手術方法の開発によって鼻粘膜をアレルギー反応が起こりにくい粘膜に変える、またはアレルギーが起こっても鼻づまりや鼻水、くしゃみが起こりにくい粘膜に変えることは可能になってきています。適切な治療を始めるには、どのような方にどのような手術が適しているのかを医師と一緒に判断することが必要になります。

花粉症は対策が重要

花粉症の症状を軽減するためには、早期の対策が非常に重要です。花粉が飛散する季節に入る前から、生活習慣や環境の工夫をすることで、症状を大きく抑えることができます。ここでは、効果的な花粉症対策について詳しく紹介していきます。

初期療法がおすすめ

花粉症は、症状が悪化すると薬の効果が得られにくくなるので、症状が軽いうちに症状を抑える薬を使い始める「初期療法」が推奨されています。初期療法では、本格的に花粉の飛散が始まると予測されている日(本格飛散開始予測日)または花粉症の症状が少しでも現れた時点で薬を使い始めるのが一般的です。本格的な花粉の飛散は2月中旬ですが、早めに内服することをおすすめします。

鼻や目のケアが大切

鼻のケアは花粉を洗い流すために生理食塩水での鼻の洗浄や、鼻のかみすぎで荒れてしまった鼻の粘膜を保護するために白色ワセリンを塗るなどのケアが大切です。

目のケアは、鼻と同様に入り込んだ花粉や異物を洗い流すことが有効なので、市販の人工涙液などを使用して目の洗浄をするようにしましょう。目がかゆいときは、かゆみを取り除く目薬を点眼してください。我慢できずに手でこすってしまうと目の表面を傷つけてしまうので、注意しましょう。

加湿も効果的

鼻腔に炎症があると粘膜機能が低下するので、室内を加湿することが重要です。

また加湿をすることで、侵入してしまった花粉を家の中で飛散させないようにする役割も果たします。花粉は水分が付着すると、重くなって下へ落ちやすくなります。加湿器でお部屋の中を加湿し、花粉に水分を付着させ床に落としてしまいましょう。一般的に雨が降った日は花粉症の症状が落ち着いて、過ごしやすいといわれています。これは、雨にあたった花粉が水分を含んで重くなって地面に落ち、花粉が飛散しにくくなるという現象によるものです。この現象を応用して、加湿器で同様の環境を作るというわけです。

マスク、メガネも効果的

花粉症治療の基本は、できる限り花粉を体内に入れないよう工夫する、セルフケアにあります。薬だけに頼らず、少しでも花粉から身を守りましょう。最も有効なのは、マスクやメガネを用いて物理的に花粉が体内に入り込むのを防ぐ方法です。顔にフィットして隙間がないマスクを着用すれば、それだけで花粉を吸い込む量をおよそ3分の1から6分の1まで減らし、鼻、目の症状を少なくさせる効果が期待されています。顔のサイズに合った立体型の花粉症用のマスクを選びましょう。また、目のかゆみが強い時は、花粉症用のメガネを使うのもおすすめです。

花粉症に関するよくある質問

花粉症で食べてはいけない食べ物は?

花粉症の方が避けた方がよい食べ物とは、アレルギー反応がある花粉に近い構造の果物や野菜です。これらを身体に取り込むことで「口腔アレルギー症候群」が発症する可能性があります。実際には花粉症が悪化するという訳ではなく「花粉症の症状+口腔アレルギー症候群」を発症するリスクがあるということです。これには個人差があり、必ずしも発症するという訳ではありません。しかし、ひどい場合はアナフラキシーショックを引き起こす可能性があるため、なるべく該当する食べ物は摂らない方がよいでしょう。

花粉の飛散時期のピークっていつなの?

1月下旬から花粉が飛び始め、ピークは2月半ばから4月までの約2ヶ月半です。 その後も6月中旬まで飛び続けるので、いつまでも症状が続くという人も多いと思います。 スギ花粉は、秋から冬にかけても少量ですが飛散します。 ヒノキはスギ花粉よりも飛散期間が短く、3月中旬から5月中旬までですが、4月に集中的に飛散します。夏以降もイネやブタクサなどがピークを迎えます。

花粉症は市販薬でも治療できる?

花粉症は人によって、くしゃみ・鼻みずの症状が強い人、鼻づまりがひどい人、目のかゆみがひどい人など様々ですが、それぞれに効果的な薬があります。自分の症状にぴったりの薬を選べば、市販薬でもきちんと効果が得られます。ただし、抗ヒスタミン薬は市販もされていますが、初期療法を検討する場合、市販薬は全額自己負担となり、コスト的には負担になります。クリニックで診察を受け、処方薬をもらう方が長い目で見るとお得になるでしょう。