インフルエンザ

インフルエンザは、インフルエンザウイルスによって引き起こされる気道感染症であり、一般的な風邪とは異なり、重症化する可能性が高い疾患です。

インフルエンザは、現在でも人類にとって最も脅威となる疫病の1つで、感染症法の対象となる五類感染症に分類されています。

感染すると、38℃以上の発熱や頭痛、関節痛、筋肉痛、全身倦怠感などの症状が現れます。気管支炎や肺炎、さらに小児の場合には中耳炎や熱性けいれん、脳症といった合併症を引き起こし、症状が悪化することもあります。感染力が非常に強いため、予防や早期の診断・治療が重要です。

インフルエンザとは

インフルエンザは、インフルエンザウイルスに感染することで起こる病気です。主な感染経路は咳やくしゃみの際に発生する飛沫による飛沫感染で、接触感染もします。

インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型、D型などがあり、ヒトに流行を起こすのは、A型とB型のウイルスです。A型はヒト以外にも、家禽(ニワトリ、アヒル、ウズラなど鳥類の家畜)、ウマ、ブタなど様々な動物に感染します。また、ヒトでの世界的大流行(パンデミック)を引き起こすのはA型のみとされています。A型のインフルエンザはその原因となるインフルエンザウイルスの抗原性が小さく変化しながら毎年世界中のヒトの間で流行しています。B型はA型のように毎年の抗原変異は起こりません。A型、B型をあわせて季節性インフルエンザと呼んでいます。例年12月初旬から1月にかけて流行しはじめ、1月から2月にかけてピークを迎え4月過ぎに収まっていきます。

また近年、国内では鳥インフルエンザが猛威を振るっており、養鶏場での殺処分のニュースや鶏卵の価格高騰のニュースをしばしば目にします。日本においては、鳥インフルエンザによる発症は確認されていませんが、アメリカでは乳牛で鳥インフルエンザの感染が確認されており、ヒトへの感染も確認されています。

インフルエンザの症状

インフルエンザウイルスに感染した後、通常1〜3日間の潜伏期間を経て、38℃以上の発熱、頭痛、全身の倦怠感、筋肉や関節の痛みといった症状が突然あらわれます。 併せて普通の風邪と同じように、のどの痛み、鼻汁、咳などの症状も見られます。

  • 上気道症状:鼻閉・鼻汁・咽頭痛
  • 下気道症状:咳・痰
  • 全身症状:突然の発熱(38℃以上)・寒気・関節痛・筋肉痛・頭痛・倦怠感・食欲不振

合併症としては、高齢者においては肺炎や気管支炎が発生しやすく、小児においてはこれらに加えて中耳炎が起こりやすく、また気管支喘息を引き起こすこともあります。インフルエンザの疑いがある症状に気づいた場合は、ほかの人にうつさないためにも速やかに医療機関での診察を受けることが重要です。

インフルエンザと風邪はどう違う?

インフルエンザは、上記の症状が急にあらわれ風邪よりも重くなる傾向です。鼻水や咳は発熱より、少し遅れてあらわれます。

風邪は、症状がゆっくりと出て、熱もインフルエンザより低いことが多いです。関節痛や寒気などの症状は比較的軽く、咳や鼻水などの症状は発症早期から出現することが多いです。

症状インフルエンザ風邪
高い(38℃以上)低い(高熱は少ない)
発熱の始まり方急に発熱緩やかに発熱
鼻水発熱に遅れて発熱と同時に
発熱に遅れて発熱と同時に
喉の痛み比較的軽度発熱と同時に
関節痛強い比較的軽度
寒気強い比較的軽度
頭痛強い比較的軽度
抗インフルエンザ薬効果的無効

インフルエンザにかかってしまったら

インフルエンザにかかったら、なるべく早めに医療機関を受診しましょう。安静にして体を休めるとともに、他の人にうつさないようにすることも大切です。

ここでは、インフルエンザにかかった場合の検査や治療法、注意すべきことについて説明します。

インフルエンザの検査

インフルエンザの検査は、正確な結果を得るために、発熱してから12〜24時間経過してから、48時間以内に受けることが推奨されています。発熱してから翌日から翌々日のタイミングが良いでしょう。

感染の初期段階ではウイルスの量が少なく検出できずに、検査結果が陰性となる可能性があります。また、発症から48時間以降では、インフルエンザウイルスの排出量が減ってしまうため、陰性判定となる可能性があります。

また、発症から12~24時間以内に抗ウイルス薬を服用すると、症状期間を短縮できる可能性があります。

一般的に、インフルエンザの検査は鼻の奥から粘液を採取し、インフルエンザウイルスの有無を確認する「抗原検査」が主流です。検査キットに液体を垂らし、試薬と反応させることで、5〜15分以内に結果が得られます。

インフルエンザの治療

抗インフルエンザウイルス薬対症療法などがあります。

インフルエンザの症状が現れてから12時間〜48時間の間に抗インフルエンザ薬を使用すると、発熱期間を短縮し、症状の悪化を防ぐ効果があります。飲み薬や吸入薬で治療を行います。

インフルエンザの治療薬には、内服薬のタミフルとゾフルーザ、吸入薬のリレンザとイナビル、点滴薬のラピアクタなどがあります。

その他、必要に応じて症状を抑える薬が処方されます。解熱薬、咳止め、去痰薬、抗菌薬を投与します。

異常行動など注意したいこと

抗インフルエンザウイルス薬のタミフルを服用した子どもの異常行動転落事故が報告されたことから、10代の患者への投与は中止されていましたが、タミフルと異常行動の因果関係が明確ではないことから、2018年より10代にも投与が可能となりました。

治療薬を服用していても、いなくても、インフルエンザにかかった子どもが「幻覚を見る」「うわごとを言う」「興奮する」などの異常行動を起こすことはあります。

未成年者がインフルエンザと診断されたら、少なくとも2日間は1人にせず、大人が見守るようにしてください。

インフルエンザの異常行動には、次のようなものがあります。特に子どもに多く見られ、発熱から2日間以内に起こりやすいと言われています。

  • 突然走り出す
  • 興奮してベランダに出て飛び降りようとする
  • 意味不明な言動をする
  • 無意味な動作を繰り返す
  • 徘徊する
  • 急に大きな声で笑う
  • 突然泣き出し部屋の中を動き回る

また、インフルエンザ脳症は、インフルエンザウイルスに感染した後に脳組織に障害を起こす合併症で、インフルエンザの最も重症な症状です。主に5歳以下の幼児に発症することが多く、低年齢層の子どもに多く発症します。脳浮腫や脳圧亢進を主症状としており、進行が早く、死に至ることもあります。インフルエンザ脳症の症状には、次のようなものがあります。

  • 発熱や倦怠感、関節痛、鼻汁などの一般的なインフルエンザの症状
  • 痙攣(何度も繰り返したり、15分以上続いたりすることが多い)
  • 意識障害
  • 異常な言動や行動

異常な言動や行動は、脳症の前触れである可能性も念頭において慎重に経過を見る必要があります。インフルエンザ脳症は進行が速いため、早期治療が重要です。初期症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診しましょう。

インフルエンザを予防しよう

インフルエンザの予防には、予防接種の他に手洗いやマスクの着用、適切な栄養摂取など日常生活における予防方法があります。インフルエンザを防ぐためには、原因となるウイルスを体内に侵入させないことや周囲にうつさないようにすることが重要です。

ワクチン予防接種を活用する

インフルエンザを発病すると、中には肺炎や脳症等の重い合併症が現れ、重症化してしまう人もいます。インフルエンザワクチン予防接種を受けることで、発病の可能性を減らすことや、重症化を予防することが期待できます。

接種回数は、13歳以上は原則1回、13歳未満は2回となります。

インフルエンザワクチンの効果は、接種後約2週間から始まり、約5ヶ月間持続します。ただし、個人差や基礎免疫の有無などによって異なります。基礎免疫のない場合は、効果の持続期間が1ヶ月近く短縮されます。

接種の時期は、インフルエンザの流行に備え、 徐々に患者数が増加する11月中に受けるのがよいでしょう。流行のピーク時(1月~2月)がカバーできるよう早すぎず遅すぎないタイミングでの接種がポイントです。2回接種の場合は、初回接種から2〜3カ月くらいがよいでしょう。

ただし、ワクチンを打っていてもインフルエンザにかかる場合もあります。

予防接種について詳しく知りたい方は当院へお問い合わせください

日常生活での予防方法

日常生活の中でインフルエンザを予防することも大切です。

通常のインフルエンザウイルスの感染は、咳やくしゃみによる飛沫や接触によってウイルスが体内に入ることで起こります 。普段からウイルスが体内に入るのを防ぐようにしましょう。

  • 普段から健康管理をし、栄養睡眠を充分とって抵抗力を高めておきましょう。
  • 人が多く集まる場所など外出先から帰ってきたときには手洗いうがいを心がけましょう。
  • アルコールを含んだ消毒液で手指を消毒するのも効果的です。
  • 咳エチケットを行いましょう。

インフルエンザの感染を予防するための「咳エチケット」とは、咳やくしゃみに含まれているかもしれない病原体が、周囲に飛び散らないように気をつけることです。ティッシュなどで口と鼻を覆い、使用後のティッシュは捨てましょう。咳やくしゃみが出ている間は積極的にマスクを着用しましょう。

インフルエンザについてよくある質問

当院によせられる「インフルエンザに関するよくあるご質問」にお答えします。

インフルエンザになったらどのくらい休めばいい?

インフルエンザによる出席停止期間は、学校保健安全法「学校保健安全法施行規則第19条」に基づき、「発症後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児の場合は3日)を経過するまで」です。発症した日から数えると、最低 6 日間の出席停止が必要ということになります。会社勤めの人に対するインフルエンザの法律はなく、出勤停止などの共通の決まりはありません。 多くの会社の場合は、学生に適用される学校保健安全法に基づき、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日を経過するまで」を出勤停止に定めています。

異常行動とインフルエンザの薬は関係あるの?

異常行動はインフルエンザの症状の一つです。薬を飲んだからなるわけではありません。日本では一部の年齢層(10~19歳)でタミフル服用後の異常行動が報告されたことがきっかけで、この薬に対する懸念が広まりました。しかし、研究によると、これらの異常行動はタミフルを服用する前から発生していたケースが多いことが判明しています。つまり、インフルエンザそのものが異常行動の原因となる可能性が高いのです。

インフルエンザは医療機関に行かなきゃダメなの?

インフルエンザウイルスの感染によって引き起こされるインフルエンザは、風邪のような軽い症状で済む場合もあれば、重症化する場合もあります。肺炎やインフルエンザ脳症、中耳炎などの合併症が生じることもあるため、適切なタイミングで病院に行くことが大事です。

抗ウイルス薬は医師の処方が必要で、市販では手に入れることができません。インフルエンザの治療薬を自分で買うことはできないため、症状を早く軽減したい場合は、必ず医療機関を受診してください。

医療機関にかかるときは、インフルエンザが疑われるような場合、感染拡大を防ぐためにも、事前に受診方法などを電話で問い合わせることをおすすめします。病院によっては、発熱患者は車や別の待合室での待機が要請されることがあります。

インフルエンザウイルスの潜伏期間ってどのくらい?

インフルエンザウイルスに感染してもすぐに症状は出ません。1~3日間の潜伏期間(症状は出ないが、感染した後、体内でウイルスが増えてきている状態)を経た後に、発熱、倦怠感などの症状が出現します。インフルエンザウイルスの潜伏期間は平均すると2日程度です。ただし、長い場合は1週間程度になることもあります。

インフルエンザは、咳やくしゃみによる飛沫感染や接触感染によって広がります。症状が現れる1日前から感染する力をつけると言われています。