認知症になる一歩手前の状態を「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」と呼びます。本人も周囲も気が付かないことが多いものの、軽度認知障害の段階で対策を講じれば回復する可能性もあるため、特徴や対策を理解しておくことが重要です。
また、認知機能の低下のように見える現象を引き起こす身体の病気や薬の影響、アルコールの影響を見逃さないこともとても大切です。認知機能の低下が気になったら早めに医療機関を受診しましょう。
軽度認知障害(MCI)について
軽度認知障害(MCI)とは、認知症の前段階で、認知機能が低下している状態を指します。加齢に伴うもの忘れと認知症の間の段階とも呼ばれます。65歳以上の人々の中で、軽度認知障害(MCI)を抱えている割合は15~25%と推定されています。また、MCIの状態にあることに気づいていない人も少なくないと考えられています。
軽度認知障害(MCI)とは
健常者と認知症に中間にあたるグレーゾーンの段階を、軽度認知障害(以下、MCI)といいます。MCIは認知機能である「記憶」「決定」「理由づけ」「実行」のうちの一部に問題が生じるものの、症状の程度が軽く、認知症までは進行していない状態です。
MCIの人は、同じ年代の人と比べて認知レベルが低下しているが、日常生活を基本的には正常に送ることができるという状態を指します。
行きなれている場所に行ったり、使いなれた機械は使えても、新しい場所や機械は苦手になります。日常生活も、どうにか送れるものの、「テキパキ」と行うことは難しくなっている状態です。
軽度認知障害の診断基準
MCIの診断は、医師による問診や認知機能検査、脳画像検査などの結果から総合的に判断されます。認知機能検査には、以下のような種類があります。
- 改訂版長谷川式簡易知能評価スケール
- ミニ・メンタルステート試験(MMSE)
MMSEでは、見当識や計算力、図形の描写力などが問われます。30点満点中、27点以下だと軽度認知障害の疑いがあるとされます。
- 核磁気共鳴画像法(MRI)
- 脳血流シンチグラフィ(SPECT)
- 血液検査
軽度認知障害の診断基準・定義は、主に次のとおりです。
1.以前と違って認知機能の低下がある。本人、家族などの情報提供者、医師などによって指摘される。
2.記憶、遂行、注意、言語、空間認知のうち、1つ以上の認知機能障害がある。
3.基本的な日常生活機能は正常である。昔よりも時間を要したり、非効率であったり、間違いが多くなったりする。
4.認知症ではない
軽度認知障害の原因
軽度認知障害(MCI)の原因は、脳の老化や生活習慣、遺伝的要因など多岐にわたります。軽度認知障害の原因の多くは、アルツハイマー病という見方もあります。アルツハイマー病は遺伝や環境、生活習慣など複数の要因が重なって発症します。
また、脳に起こる変化が主な原因だとも考えられており、体や心の問題でも起きることがあります。
軽度認知障害の原因とされる主なものは以下のとおりです。
【疾患による原因】
- アルツハイマー病
- レビー小体型認知症
- 前頭側頭葉変性症
- 血管性認知症
- 外傷性脳損傷
- パーキンソン病
【生活習慣に関連する要因】
- 高血圧
- 糖尿病
- 肥満
- 脂質異常症
【その他の要因】
- 慢性硬膜下血腫などの脳血管障害
- 正常圧水頭症
- うつ病
- ビタミンB群や葉酸、甲状腺ホルモンの不足
- 薬剤の副作用
【遺伝的要因】
- アポリポプロテインE(APOE)ε4アレルの存在が、アルツハイマー病のリスクを増加させることが知られています。
軽度認知障害の症状
軽度認知障害(MCI)は、認知症の初期症状が表れつつある状態を指します。日常生活に支障が出るほどのもの忘れ・記憶障害を起こしていないのが特徴です。
主な症状例は以下の通りで、認知症と共通する症状も多く見られます。
- 会話をしている中で、同じ話をすることが多くなった。
- 先ほど食べたものや知人の名前、銀行口座の暗証番号など、これまでは忘れる可能性が低かったものを忘れている。
- お金の計算やスケジュール管理ができなくなった。
- 料理の味付け、仕事や車の運転などの様子が変わった。
- 好きだった趣味活動をしなくなった。
- ドラマや読書を楽しめなくなった。
- 頭がぼんやりしてすっきりしない。
- 疲れやすく元気が出ない。
- やる気がわかない。
軽度認知障害の方がすべて認知症に進行するわけではありませんが、一定割合の方は認知症に移行するとされています。気になる症状がある場合はなるべく早く医師の診察を受けましょう。
軽度認知障害かも?セルフチェックしよう!
認知症を予防するためには、いち早く軽度認知障害(MCI)の兆候に気づくことが大切です。「あれ、なんか変だな?」と思ったら、以下をチェックしてみましょう。
- 同じことを言ったり聞いたりする。
- 物の名前が出てこなくなった。
- 置き忘れやしまい忘れが目立ってきた。
- 以前はあった関心や興味が失われた。
- だらしなくなった。
- 日課をしなくなった。
- 時間、場所の感覚が不確かになった。
- 慣れた所で道に迷った。
- 財布などが盗まれたという。
- ささいなことで怒りっぽくなった。
- 蛇口、ガス栓の閉め忘れ、火の用心ができなくなった。
- 複雑なテレビドラマが理解できない。
- 夜中に急に起き出して騒いだ。
※このチェックリストの結果はあくまで目安のため、正確な診断に代わるものではありません。
認知症の診断は医療機関での受診が必要です。複数当てはまるようでしたら、できるだけ早めに専門の医療機関へ相談し検査を受けることをおすすめします。
軽度認知障害を改善するには
軽度認知障害(MCI)の状態で医療機関を受診し、医師の指導のもと食生活の改善や運動習慣を身につけるなど適切な対応を行うことで、 認知症の発症リスクを軽減できる可能性があります。 また、認知症を発症している場合も、初期の段階で受診し早期に治療を開始することで、進行を遅らせたり症状を改善したりできる場合もあります。
早期発見がなにより大切
改善の可能性を高めるには早期発見がなにより大事とされます。軽度認知障害(MCI)の段階から認知症のステージに進行する割合は1年で約10%です。一方、MCIの状態から健常状態に戻る率は14~44%といわれています。
MCIの段階で認知機能の低下に対処するためには、「物忘れが増えてきた」「今まで問題なくできていた作業に時間がかかるようになった」など、患者さんご自身やご家族が日常生活での変化を感じた段階で、精神科や脳神経内科、認知症外来や物忘れ外来を受診するとよいでしょう。日々の生活の中で兆候を見逃さず、「おかしいな?」と思ったら、先送りにせずなるべく早めに受診しましょう。
バランスのよい食事
軽度認知障害(MCI)の予防・改善。そして認知症へのリスクを低下させていく中では「食習慣」も欠かせないポイントとなります。
特に軽度認知障害、そして認知症を予防するには下記の理由から「和食」が良いとされています。
- 低カロリー・高タンパク・低脂質
- DHAやEPAなどの不飽和脂肪酸が含まれている魚や野菜を取り入れやすい
- 洋食と比較すると塩分が低いので高血圧が予防できる
逆にファーストフードやカップ麺など、糖質、脂質、カロリーが高い食品は軽度認知障害・認知症には悪いとされる食事です。
適度な運動
軽度認知障害(MCI)の予防には、ウォーキングやジョギング、サイクリングなどの有酸素運動や、筋力トレーニングなどの無酸素運動が効果的です。
1日30分、ウォーキング・サイクリング・水中歩行などの運動を週3~5回程度行うとよいでしょう。65歳以上の方は、10分以上の運動×3回でも構いません。運動しながら頭を使うと、認知機能維持・低下予防にも効果があるといわれていますので、より認知症予防に効果を期待する場合にはおすすめです。
コミュニケーションをとる
さまざまな人とコミュニケーションをとることで、認知機能の改善や維持を図ることができます。家族や友人の協力も必要で、変化に気付くきっかけになります。
認知症の方は言われたことを理解するのに時間がかかるため、相手のペースに合わせながら会話をすることが大切です。
軽度認知障害(MCI)の人は出無精になる傾向があります。特に一人暮らしの人は、一日中誰とも話すことなく生活を送っているケースもあるので、できるだけ家に閉じこもらず、外に出て人と話すことを心がけたいものです。知人・友人との会話はもちろん、例えば買い物に出かけたお店で店員さんと言葉を交わすといったことも、立派なコミュニケーションです。
頭を使う習慣をつける
脳の運動である認知機能トレーニングは、軽度認知障害のリスクを抑えるとされています。前頭前野を刺激する認知機能トレーニングでは、楽しみながら脳のトレーニングをすることが可能です。
頭を使う認知機能トレーニングには、将棋やオセロ、麻雀などがあります。学ぶことが好きな場合には、簡単な学習ドリルやクロスワードパズルなどに取り組んでも良いでしょう。最近は、ゲーム機やスマートフォンで手軽に脳をトレーニングできる方法も人気があります。文章を書くことが好きな場合には、日記やブログなどを始めるのもおすすめです。
軽度認知障害睡眠に関するよくある質問
当院に寄せられる「軽度認知障害(MCI)に関するよくあるご質問」にお答えします。
軽度認知障害でも車の運転はできますか?
軽度認知障害と診断されても免許証の更新は認められますが、半年後の検査が必要になります。周りのサポートがあり、生活に支障が出ない場合は積極的な運転は控えるべきでしょう。
なお、「認知症のおそれがある」という旨の診断結果であった場合は、臨時適性検査を受け、または医師の診断書を提出することとなります。 認知症と診断された場合には、聴聞等の手続を経たうえで運転免許が取り消され、又は効力が停止されます
軽度認知障害と認知症の具体的な違いって?
認知症への内部リンクお願いします。
軽度認知障害(MCI)と認知症の違いは、自立した生活を送れるかどうかです。MCIは認知症と診断されてはいないものの、認知機能が低下して物忘れの頻度が多くなる状態です。一方、認知症は記憶力だけでなく、時間や場所が認識できないなどの症状が現れ、自立した日常生活が困難となります。
軽度認知障害(MCI)と認知症の主な特徴の違いは以下のとおりです。
【軽度認知障害(MCI)の特徴】 ・記憶力や注意力などの認知機能が低下している・日常生活への影響はほとんどない・認知症と診断できない状態・認知症に移行する可能性がある | 【認知症の特徴】 ・記憶力だけでなく、時間や場所が認識できないなどの症状が現れる・自立した日常生活が困難となる・物忘れしたことすら忘れるような状況になる |