睡眠障害

普段よりも寝るのに時間がかかり、一度寝入っても何度も目が覚めてしまう、または朝早く目が覚めて再び眠れなくなるなど睡眠に関するさまざまな問題が生じている状態が睡眠障害です。睡眠が妨げられると、日中の活動に支障をきたし、心身の健康にも悪影響を及ぼすことがあります。また、日中に現れる睡眠障害の症状は、事故のリスクを高めたり、生活習慣病やうつ病の発症リスクを増加させることもあります。特に高齢者においては、睡眠の質が低下し、不眠などの睡眠障害が見られることが多いです。睡眠障害に対しては適切な診断と治療を受けることが大切です。

睡眠障害とは

睡眠障害の種類は睡眠障害国際分類をはじめ多岐にわたります。以下は日常的にみられやすいとされる睡眠障害の種類です。

  • 不眠症
  • 過眠症
  • レストレッグス(むずむず脚)症候群
  • 概日リズム睡眠覚醒障害
  • 睡眠時無呼吸症候群

不眠症

不眠症は、入眠の困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟睡の障害などによって、必要な睡眠時間が確保できず、睡眠の質が低下する状態です。このため、日中の疲労感や集中力の低下、不調、気分の変動などが生じ、日常生活に支障をきたすことがあります。不眠症は、睡眠障害の中で最も一般的なものとされています。

不眠症の主な原因は以下のとおりです。

  • 眠れないかもしれないという慢性的な不安や緊張などのストレス
  • 抗パーキンソン病薬、降圧薬、副腎皮質ステロイド、インターフェロンなどの薬剤の副作用
  • 慢性の痛み(頚椎症や腰痛など)、かゆみ、呼吸困難(気管支喘息など)、尿路系の刺激(前立腺肥大、膀胱炎)などの身体疾患
  • うつ病などの精神疾患
  • アルツハイマー病、パーキンソン病などの神経疾患や脳血管疾患、脳腫瘍、頭部外傷

過眠症(ナルコレプシー)

過眠症とは、夜に十分な睡眠をとっているにもかかわらず、日中に過度の眠気が生じ、仕事や学習に支障をきたす状態を指します。過眠症には、ナルコレプシー、特発性過眠症、薬剤による過眠の3種類があります。ナルコレプシーでは、突然の眠気に襲われて眠り込んでしまう睡眠発作や、笑ったり驚いたりした際に体の力が抜ける情動脱力発作、入眠時の睡眠麻痺、入眠時幻覚などの症状が見られます。この病気の原因には、覚醒を維持する物質であるオレキシンの減少が関与しています。

レストレッグス(むずむず脚)症候群

睡眠関連運動障害として、睡眠関連の運動障害の一つに、レストレスレッグス症候群(むずむず脚症候群)があります。この症候群は、寝床に入って静かにしていると足にムズムズとした異常な感覚が生じ、身体を動かすことで症状が軽減されるため、入眠が妨げられます。原因としては、鉄分の不足やドーパミンの機能低下が関与していると考えられています。鉄分が不足する慢性腎不全や鉄欠乏性貧血、胃切除後の状態、さらには末梢神経炎やパーキンソン病などに伴ってみられることもあります。

概日リズム睡眠障害

体内時計が生み出す概日リズムにより、夜に眠り、日中に活動する生活スタイルが形成されていますが、このリズムにズレが生じることで、夜間に十分な睡眠を確保できない障害が起こります。

概日リズム睡眠覚醒障害の原因としては、夜間に働く交代勤務によって体内時計と異なる時間に睡眠をとることや、夜型の生活スタイルによって睡眠時間が遅くなることが挙げられます。また、高齢者の場合、夕方に眠気を感じ、早朝の2〜3時に目が覚めて再び眠れない「睡眠相前進型」が加齢とともに増加する傾向があります。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、睡眠中に呼吸が止まる、または浅くなる病気です。日中の眠気や頭痛、集中力の低下などの症状があらわれます。睡眠中に舌の根元が喉の方に落ち込むことで気道が塞がれ、いびきや呼吸の低下、さらには無呼吸が発生します。このような低呼吸や無呼吸が起こると、血液中の酸素濃度が低下し、目が覚めてしまうため、睡眠が断続的になり、十分な熟睡感が得られません。

肥満や首周りの脂肪の蓄積、短い首、狭い上気道、小さな下顎などの要因があると、睡眠中に気道が閉塞しやすくなります。

睡眠障害の診断

睡眠障害は、身体的または精神的な疾患、服用中の薬、肥満、飲酒習慣、就寝・起床の時間、生活スタイル、仕事に関する問診や実際の睡眠の測定を通じて診断されます。

問診だけでは診断できない時は、いくつかの検査を行うことがあります。睡眠ポリグラフ検査(PSG検査)はよく使われる検査方法です。脳波、心電図、眼球運動、筋電図、呼吸運動、いびきなどを同時に検査する機器で、睡眠障害の診断や重症度評価、治療方針の決定などに用いられます。

なお、以下の症状を自覚したり、他者から指摘されたりして、日常生活に支障をきたすような深刻な場合は、早めに医療機関を受診することをおすすめします。

  • 不眠(寝つきが悪い、途中で目が覚めて再入眠できない、早朝に目が覚める、熟睡できない)
  • 過眠(日中の強い眠気、居眠りをすることがある)
  • 寝る前に足がむずむずして動かさずにはいられない
  • 適切な時間に就寝・起床できない
  • 睡眠中に大きないびきや呼吸が止まることがある
  • 睡眠中に大声で寝言を言ったり、叫んだり、寝ぼけて行動することがある
  • 睡眠中に足がピクピクすることがある

睡眠障害の原因

睡眠障害の原因は人によって様々です。原因によって生活習慣を見直すだけで大丈夫な場合や、医師による治療が必要になる場合もあるなど、対処法も変わってきます。

一例として、不規則な生活や日中の光不足は、メラトニンの分泌を妨げ、睡眠障害を引き起こす原因となります。

睡眠障害の主な原因は以下の通りです。

  • 心理的原因

 ストレスや悲しい出来事(家族や友人の死、仕事の問題など)が不眠を引き起こすことがあります。

  • 身体的原因

痛みやかゆみを伴う病気(外傷、関節リウマチ、喘息など)が不眠の原因となることがあります。

  • 精神医学的原因

不安や抑うつが不眠を引き起こすことが多く、特にうつ病が関与する場合があります。

  • 薬理学的原因

一部の薬やアルコール、カフェイン、ニコチンが不眠を引き起こすことがあります。

  • 生理学的原因

環境要因(時差ボケや生活リズムの変化)が睡眠を妨げることがあります。

睡眠障害の治療法、予防法

睡眠障害の治療は、まず原因を特定し、その後に睡眠衛生に関する指導を行います。それでも改善が見られない場合には、薬物療法や認知行動療法を検討します。

慢性化した不眠症は、自然に治ることはあまり期待できないため、治療が必要です。治療には薬を使う場合もありますが、睡眠習慣を改善する治療法として、認知行動療法があります。

また、睡眠障害の予防には、適度な運動や規則正しい生活習慣、寝室の環境を整えることが大切です。

生活のリズムを整える

不眠症を改善するには、生活リズムを整えることが大切です。規則正しい生活習慣を心がけ、体内時計をリセットしましょう。毎朝同じ時刻に起き、朝起きたら太陽の光を浴びて、規則正しい3度の食事と適度な運動を心がけることで睡眠リズムを整えることができ、運動習慣で熟睡をうながします。

20分程度の短い昼寝は頭をすっきりさせ、集中力や作業能力の低下を防ぐことができることが認められています。しかし、午後3時以降に眠るのは夜の睡眠の妨げになるので控えましょう。

夕食での香辛料の使用を控える

睡眠障害の改善のため、夕食では、唐辛子やコショウなどの香辛料や刺激の強い食べ物を控えましょう。交感神経を刺激する作用があり、寝つきや眠りの質が悪くなるためです。また、アルコールやコーヒーを摂取すると、寝つきが悪くなることがあります。アルコールを分解する際に生成される「アセトアルデヒド」は睡眠を妨げ、カフェインは交感神経を刺激してしまうためです。

さらに、揚げ物や肉類など、消化に時間がかかる食べ物も避けた方が良いでしょう。

これらの食習慣を持つ方は、睡眠障害が生じていることがあります。

就寝前のスマホは控えよう

就寝前にスマートフォン(スマホ)の使用を控えることが大切です。スマホの画面から発せられるブルーライトが体内時計を乱したり、睡眠ホルモンの分泌を抑制したりする可能性があるためです。

人は日光を浴びることで覚醒し、夜になると眠くなる睡眠リズムを持っています。このリズムには「メラトニン」というホルモンが関与しており、明るい光を浴びると分泌が減少し、暗い環境では増加します。しかし、スマホやパソコンなどの光が脳に昼間だと錯覚させ、メラトニンの分泌を抑制するため、睡眠障害を引き起こすことがあります。「寝る前スマホ」による睡眠障害は若年層に多く、厚生労働省も注意を呼びかけています。

1日のメリハリを意識する

日中は活動的に過ごし、夜は穏やかに過ごすなど生活にメリハリを意識することで、体内リズムや自律神経のバランスを整えます。生活にメリハリをつけるためには、睡眠をコントロールする2つの法則を理解することが重要です。第1の法則は、身体の「生体時計」に基づき、昼間の活動と夜間の休息のリズムを作ることです。毎日同じ時間に起き、朝は明るい光を浴び、夜はリラックスした環境を整えることで、メリハリをつけることができます。第2の法則は、寝る直前の疲労度が睡眠の質と量に影響することです。適度に身体を動かし、脳を使うことで深い眠りを得やすくなりますが、過度の疲労は逆効果になることもあるため注意が必要です。身体と脳のバランスを取ることが良い睡眠につながります。

薬物療法

睡眠衛生に関する指導のもとでも、どうしても睡眠障害の改善がみられない場合などは睡眠導入剤などを処方して対応します。

以下のような場合には、一時的に「薬物療法」による睡眠障害の改善が必要です。

  • 今すぐ不眠症を改善しないと生活に支障が出てくる
  • 生活改善を色々試してきたけれど、どうしても不眠症を改善できない
  • 仕事や家族の関係で生活リズムを整えることができず、不眠症が苦しい

睡眠障害(不眠症)の治療には、睡眠導入剤(睡眠薬)が用いられます。睡眠導入剤には以下のような種類と特徴があります。

睡眠導入剤特徴
GABA受容体作動薬・ベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系脳の興奮を抑えるGABA(ガンマアミノ酪酸)という神経伝達物質の働きを促すことにより、脳の活動を休ませて眠りへと導きます。薬が効き始める時間、薬の効果が続く時間により使い分けられます。
メラトニン受容体作動薬脳内には、メラトニンという体内時計の調節をするホルモンがあります。この薬は、このメラトニンが作用する部分を刺激することにより、体内時計を整え、睡眠を促します。
オレキシン受容体拮抗薬脳内には、オレキシンという覚醒を維持する物質があります。この薬は、脳内でのオレキシンの働きを弱めることにより、睡眠を促します。

睡眠障害に関するよくある質問

当院に寄せられる「睡眠障害に関するよくあるご質問」にお答えします。

中途覚醒も睡眠障害ですか?

中途覚醒とは、一度眠りについた後に、うつ病やストレス、環境の変化、アルコールの摂取などの影響で、睡眠を持続できずに夜中に何度も目が覚めてしまう睡眠障害のことです。この状態は睡眠の質を低下させ、日中の疲労感や集中力の低下といった影響を引き起こすことがあります。不眠症には入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒の3つのタイプがありますが、その中でも中途覚醒が最も多く見られるとされています。

睡眠障害の方に向いている仕事はありますか?

睡眠障害がある人には、残業や夜勤が少ない事務職や、時間や勤務場所に柔軟性がある職場など自分のペースでできる仕事などが向いているといえます。具体的には事務職などのデスクワークやプログラミングやライターの仕事などが挙げられます。

睡眠障害の特徴や生活リズムに乱れが生じるために早出や残業が難しいこと、こまめに休息を取りたいことを職場に伝えておくのもよいでしょう。